新しい眼内レンズ(多焦点など)が必ず優れているわけではない
―広告に踊る人―
眼内レンズ(IOL)は、白内障手術で使用される人工水晶体として、視力を取り戻すために欠かせない存在です。しかし、近年、多焦点レンズや調節型レンズなどの新しいタイプが次々と登場し、その広告が魅力的に見えるために、患者だけでなく眼科医でさえも影響を受けるケースが増えています。
新しい技術は必ずしも「最高」ではない
広告では、新しい技術がすべての問題を解決し、最高の結果をもたらすかのように謳われています。しかし、光学や生体工学の専門知識を持たない人々にとって、その技術の限界や課題を見抜くのは難しいことです。実際、新しい眼内レンズにも利点と欠点が存在します。
例えば、多焦点レンズは遠くと近くの視力を補正する設計ですが、すべての患者に新しいレンズが適しているわけではありません。光学的特性として、光を遠近の焦点に分割することで、コントラスト感度が低下したり、ハローやグレアといった視覚的な不快感を引き起こす可能性があります。また、調節型レンズは理論上、自然なピント合わせを再現することを目指していますが、長期的な効果や安定性に課題が残されています。
広告に惑わされる人たち
眼内レンズに関する広告は、多くの場合、一般の消費者にとって非常に魅力的に見えます。「これ1つで眼鏡不要!」や「若返り効果!」といったキャッチコピーは、確かに目を引くものです。しかし、それが全員にとっての最適解であるとは限りません。
特に問題なのは、一部の眼科医がこうした広告文句をそのまま患者に伝えるケースです。本来、医師は新しい技術を冷静に評価し、その適用範囲やリスクを理解した上で患者に提案すべきですが、残念ながら広告の影響を受けてしまう医師も少なくありません。果たして、眼内レンズを設計、製造、臨床まですべて把握できる眼科医が日本にいるでしょうか?しかし、レンズを考えるうえではこれが非常に重要です。
専門的知識の重要性
眼内レンズの光学設計は高度な専門分野であり、単純な比較では語れません。例えば、レンズの屈折率、非球面デザイン、散乱光の制御技術など、多くの要因がその性能を左右します。また、患者個々の目の状態―角膜形状、瞳孔径、網膜疾患の有無―によって、適したレンズは異なります。
私は光学と眼内レンズの専門家として、新しい技術を冷静に評価することが重要だと考えています。そして、この分野の専門知識を持つ医師は日本では非常に少ないのが現状です。これにより、患者が適切な選択をするための情報を十分に得られない場合が多々あります。
正しい選択をするために
患者が眼内レンズを選ぶ際、最も重要なのは、自分の生活スタイルや視覚的なニーズに合った選択をすることです。以下の点に注意してください:
- 自分の目の状態を知る:眼科医にしっかりと検査してもらい、自分に適したレンズの種類を理解する。
- リスクと利点を比較する:多焦点レンズや調節型レンズの利点だけでなく、デメリットについても詳しく説明を受ける。
- ネットの情報を鵜呑みにしない:基本、ネットの情報はメーカーが作ったデータであり、平気で間違ったこと載せてます。かつ、それが間違いであることに気づかない人がほとんどです。
- 自分でレンズを決め打ちしない:ネットの情報だけから判断してもほぼそれは間違いであることがほとんどです。かといって、レンズ光学を説明しても一般の方はもちろん、眼科医でも理解は非常に困難で、それくらい難しいことです。
- 完璧なものはない:すべてGive and Takeです。
まとめ
新しい眼内レンズが必ずしもすべての患者にとって最高の選択肢であるとは限りません。広告に惑わされることなく、冷静に判断するためには、正しい情報と専門知識が必要です。眼科医でさえも影響を受ける時代だからこそ、患者もより賢明な選択をする努力が求められます。
新しい技術を活用しつつ、患者一人ひとりに最適な治療を提供することこそが、医療の本質であると言えるでしょう。