😌 笑気麻酔の副作用(頭痛・吐き気)と対処法👁️
~眼科手術で笑気麻酔を使う方へ 安心ガイド~
🌟 この記事のポイント(結論)
眼科手術で使用する笑気麻酔(亜酸化窒素)は、リラックス効果が高く安全性の高い麻酔法ですが、まれに頭痛や吐き気が起こることがあります。しかし、これらの副作用は適切な予防と治療で十分にコントロール可能です。当院では、最新のエビデンスに基づいた副作用対策を行っており、安心して手術を受けていただけます。
- ●一般の患者さん向け
- ●眼科医・医療従事者向け
一般の患者さん向け
専門用語を減らし、わかりやすく解説しています。不安を解消し、安心して手術を受けていただくための情報です。
😊 1. 笑気麻酔ってどんな麻酔?
笑気麻酔の基本
笑気麻酔とは、「笑気ガス(亜酸化窒素:N2O)」と呼ばれる気体を吸入することで、リラックス効果と軽い痛み止め効果を得る麻酔法です。
笑気麻酔の特徴
- リラックス効果:緊張や不安がやわらぎます
- 痛みの軽減:点眼麻酔と併用することで、より快適に
- 効果がすぐに消える:吸入をやめると5〜10分で元通り
- 帰宅が早い:付き添いの方がいれば、すぐに帰れます
- 意識はある:全身麻酔と違い、会話ができます
当院で笑気麻酔を使う手術
- 白内障手術
- ICL手術(眼内コンタクトレンズ)
- その他、患者さんの不安が強い場合
「手術が怖い」「じっとしていられるか不安」という方に特におすすめしています。
🤔 2. 副作用(頭痛・吐き気)が起こる理由
笑気麻酔はとても安全な麻酔法ですが、まれに頭痛や吐き気が起こることがあります。なぜ起こるのか、わかりやすく説明します。

頭痛が起こる理由
笑気ガスの吸入をやめた直後、体内に残った笑気ガスが一気に肺から出ていきます。このとき、一時的に体に届く酸素の量が減ることがあります(専門用語で「拡散性低酸素症」といいます)。これが頭痛の原因になることがあります。
➡️ 予防法:笑気ガスを止めた後、3〜5分間、純粋な酸素を吸っていただくことで予防できます。当院ではこれを必ず行っています。
吐き気が起こる理由
笑気ガスは、脳の中にある「吐き気のスイッチ」(CTZ:化学受容器引金帯)を刺激することがあります。また、耳の奥(内耳)や胃腸にも影響を与えることがあり、これらが組み合わさって吐き気を引き起こすことがあります。
➡️ 起こりやすい方:女性、乗り物酔いしやすい方、過去に術後の吐き気を経験した方
副作用が起こる確率は?
| 副作用 | 発生率 | 特徴 |
|---|---|---|
| 頭痛 | 約5〜10% | 軽度で、数時間で自然に改善 |
| 吐き気・嘔吐 | 約20〜30% | 予防薬で大幅に減らせる |
※予防策を講じることで、これらの発生率を大幅に下げることができます。
💊 3. 副作用が起きたらどうする?
頭痛への対処
✅ 当院での対応
- 酸素投与:まず純粋な酸素を吸っていただきます
- 鎮痛薬:必要に応じて、体にやさしい痛み止め(アセトアミノフェン)を使用
- 安静:少し休んでいただくだけで良くなることがほとんどです
吐き気への対処
✅ 当院での対応
- 予防薬の投与:手術中に吐き気止めを使用(予防が最も大切)
- 追加の吐き気止め:症状が出た場合は、別の種類の薬を使用
- 安静と水分補給:無理に動かず、少しずつ水分を取る
🏥 4. 当院での取り組み
ASUCAアイクリニックの副作用対策
✅ 術前の取り組み
- リスク評価:吐き気が起こりやすいかどうか、事前に確認します
- 丁寧な説明:副作用の可能性と対処法を事前にご説明します
✅ 術中の取り組み
- 予防薬の投与:吐き気止めを手術開始時と終了時に投与
- 適切な濃度管理:笑気ガスの濃度を適切にコントロール
✅ 術後の取り組み
- 酸素投与:笑気ガス中止後、必ず3〜5分間酸素を投与
- 経過観察:回復室で十分に休んでいただきます
- 術後サポート:帰宅後に症状が出た場合も電話でご相談いただけます
❓ 5. よくあるご質問(FAQ)
- 笑気麻酔で副作用が出やすい人はいますか?
-
以下の方は吐き気が起こりやすい傾向があります。
- 女性の方
- 乗り物酔いしやすい方
- 過去の手術で吐き気を経験した方
- 非喫煙者の方
当院では、これらの方には予防薬を追加するなど、個別に対応しています。
- 頭痛や吐き気はどのくらい続きますか?
- ほとんどの場合、数時間以内に自然に改善します。笑気ガスは体内に蓄積せず、呼吸とともにすぐに排出されるためです。翌日まで症状が続くことは非常にまれです。
- 副作用が心配なので、笑気麻酔を使わないこともできますか?
- はい、もちろん可能です。当院では、患者さんのご希望に応じて、点眼麻酔のみでの手術も行っています。ご不安な点がございましたら、遠慮なくご相談ください。
- 手術当日は何に気をつければいいですか?
-
以下の点にご注意ください。
- 手術3時間前からは食事を控えてください(水分は可)
- ご自身での運転はできません。付き添いの方と来院してください
- 楽な服装でお越しください
- 帰宅後に副作用が出たらどうすればいいですか?
- 軽い頭痛であれば、市販の鎮痛薬(アセトアミノフェン)を服用し、安静にしてください。吐き気がある場合は、無理に食事を取らず、少しずつ水分を補給してください。症状がひどい場合や、視力に異常を感じた場合は、すぐに当院にご連絡ください。
眼科医・医療従事者向け
以下は専門的な内容となります。笑気麻酔後の副作用(PONV・頭痛)に対する発生機序、薬物治療プロトコル、エビデンスに基づく推奨事項を解説します。

🔬 6. PONV・頭痛の発生機序
6-1. 笑気麻酔後のPONV(術後悪心嘔吐)の発生機序
笑気(N2O)によるPONVは、以下の複数の機序により発生する1,2)。
| 機序 | 詳細 |
|---|---|
| ①CTZ刺激 | 延髄最後野の化学受容器引金帯(CTZ)に存在するドパミンD2受容体および5-HT3受容体を直接刺激し、嘔吐中枢を活性化 |
| ②中耳内圧上昇 | N2Oは窒素より34倍の溶解性を有し、閉鎖腔への急速拡散により中耳内圧が上昇。前庭器官を刺激し、乗り物酔い様の症状を惹起 |
| ③消化管膨満 | 腸管内ガス膨張による迷走神経求心路の刺激。腸管拡張がCTZへの入力を増強 |
| ④交感神経刺激 | カテコラミン放出増加による消化管運動抑制。胃内容物停滞が悪心を増悪 |
エビデンス
ENIGMA-II試験(n=7,112)において、N2O使用群は非使用群と比較して重度PONVリスクがオッズ比1.4〜1.5倍に上昇することが報告されている3)。ただし、適切な制吐薬予防投与により、このリスクはほぼ相殺可能である。
6-2. 笑気麻酔後の頭痛の発生機序
主な原因は拡散性低酸素症(Fink効果)である4)。
Fink効果のメカニズム
- N2O吸入中止後、血中N2Oが急速に肺胞内へ拡散
- 肺胞内酸素分圧が一過性に低下(肺胞内N2O濃度が酸素を希釈)
- 動脈血酸素分圧低下による脳への酸素供給減少
- 脳血管拡張と頭痛発症
予防:N2O中止後、100%酸素を3〜5分間投与することで、拡散性低酸素症は予防可能である。
6-3. リスク評価:Apfelスコア

| リスク因子 | スコア | PONV発生率 |
|---|---|---|
| 女性 | +1 | 0点:10% |
| 非喫煙者 | +1 | 1点:21% |
| PONV/乗り物酔いの既往 | +1 | 2点:39% |
| 術後オピオイド使用予定 | +1 | 3-4点:61-79% |
⚠️ N2O使用時の推奨:Apfelスコアに関わらず、予防薬2剤以上の投与を推奨3)
💊 7. 使用薬剤一覧(日本で使用可能な薬剤)
7-1. 頭痛に対する鎮痛薬

| 分類 | 一般名 | 製品名 | 規格 | 主な副作用・注意点 |
|---|---|---|---|---|
| アセトアミノフェン(静注) | アセトアミノフェン | アセリオ®静注液(テルモ) | 1000mg/100mL | 肝障害、血圧低下(急速静注時) |
| アセトアミノフェン(経口) | アセトアミノフェン | カロナール®錠(あゆみ製薬) | 200/300/500mg | 肝障害(高用量長期投与時) |
| NSAIDs(静注) | フルルビプロフェン アキセチル | ロピオン®静注(科研製薬) | 50mg/5mL | 消化管障害、腎障害、出血傾向 |
| NSAIDs(経口) | ロキソプロフェン | ロキソニン®錠(第一三共) | 60mg | 消化管障害、腎障害 |
7-2. PONV制吐薬
| 分類 | 一般名 | 製品名 | 規格 | 保険適応 | 主な副作用 |
|---|---|---|---|---|---|
| 5-HT3拮抗薬 | オンダンセトロン | オンダンセトロン注「マルイシ」(丸石製薬) | 4mg/2mL | PONV○ | 頭痛、便秘、QT延長 |
| 5-HT3拮抗薬 | グラニセトロン | カイトリル®注(太陽ファルマ) | 1mg, 3mg | PONV○ | 頭痛、便秘 |
| ステロイド | デキサメタゾン | デカドロン®注射液(日医工) | 3.3mg, 6.6mg | 適応外 | 血糖上昇、会陰部不快感 |
| D2拮抗薬 | ドロペリドール | ドロレプタン®注(第一三共) | 2.5mg/1mL | 適応外 | 鎮静、錐体外路症状、QT延長 |
| D2拮抗薬 | メトクロプラミド | プリンペラン®注(日医工) | 10mg/2mL | 悪心嘔吐○ | 錐体外路症状、遅発性ジスキネジア |
📝 保険適応について
2021年8月より、オンダンセトロンおよびグラニセトロンが「術後の消化器症状(悪心、嘔吐)」に保険適応となった11)。これにより、日本においてもエビデンスに基づいたPONV予防・治療が可能となった。
📋 8. 治療プロトコル
8-1. 頭痛治療プロトコル
【第一選択】アセリオ®静注液
| 患者群 | 投与量 | 投与方法 | 投与間隔 | 1日最大量 |
|---|---|---|---|---|
| 成人(≥50kg) | 300〜1000mg | 15分かけて静注 | 4〜6時間以上 | 4000mg |
| 成人(<50kg) | 15mg/kg | 15分かけて静注 | 4〜6時間以上 | 60mg/kg |
| 小児(2歳以上) | 10〜15mg/kg | 15分かけて静注 | 4〜6時間以上 | 60mg/kg(上限1500mg) |
⚠️ 使用上の注意5)
- 投与速度厳守:15分以上かけて静注(急速静注で血圧低下のリスク)
- 禁忌:重篤な肝障害、消化性潰瘍、アスピリン喘息
- 慎重投与:アルコール多量常飲者、低栄養状態(肝障害リスク↑)
【第二選択】ロピオン®静注
| 患者群 | 投与量 | 投与方法 |
|---|---|---|
| 成人 | 50mg | 1分以上かけて緩徐に静注、必要に応じて反復投与 |
⚠️ 使用上の注意6)
- 禁忌:消化性潰瘍、重篤な腎・肝・心障害、アスピリン喘息
- 併用禁忌:ニューキノロン系抗菌薬(エノキサシン、ノルフロキサシン等)→ 痙攣リスク
- 他のNSAIDsとの併用は避ける
8-2. PONV治療プロトコル
【第一選択】オンダンセトロン注「マルイシ」
| 用途 | 投与量 | 投与方法 | 投与タイミング |
|---|---|---|---|
| 予防 | 成人:4mg | 30秒以上かけて緩徐にIV | 手術終了時 |
| 救済 | 4mg | IV | 予防から6時間以上後 |
⚠️ 注意:急速静注でめまい。6時間以内の再投与は無効7)
【併用推奨】デカドロン®注射液
| 用途 | 投与量 | 投与タイミング | 作用持続 |
|---|---|---|---|
| 予防 | 4〜8mg IV(6.6mg推奨) | 麻酔導入時 | 24時間以上 |
⚠️ 重要:効果発現に約2時間を要するため、手術終了時ではなく麻酔導入時に投与8)。糖尿病患者では一過性の血糖上昇(約40mg/dL程度)に注意。
【追加薬剤】ドロレプタン®注
| 用途 | 投与量 | 投与タイミング |
|---|---|---|
| 予防(高リスク時追加) | 0.625〜1.25mg IV | 手術終了時 |
| 救済 | 0.625mg IV | — |
⚠️ 注意:鎮静作用強い(約25%)。QT延長リスク(PONV用量では臨床上問題少)9)
8-3. 推奨併用療法
| リスクレベル | 推奨レジメン |
|---|---|
| N2O使用・低〜中リスク | オンダンセトロン4mg(終了時)+デキサメタゾン6.6mg(導入時) |
| 高リスク(Apfel 3-4点) | 上記+ドロペリドール0.625mg(終了時) |
| 超高リスク | 上記+TIVA(プロポフォール麻酔)への切り替え検討 |
8-4. 救済治療(予防投与失敗時)
原則:予防に使用した薬剤とは異なる薬理学的クラスから選択
| 予防に使用した薬剤 | 救済に推奨される薬剤 |
|---|---|
| オンダンセトロン単独 | ドロペリドール 0.625mg |
| オンダンセトロン+デキサメタゾン | ドロペリドール 0.625mg |
| 3剤使用後 | プリンペラン 10mg |
8-5. 標準プロトコル早見表(N2O鎮静使用時)

| フェーズ | 介入 | 薬剤・投与量 |
|---|---|---|
| 麻酔導入時 | PONV予防① | デカドロン® 6.6mg IV |
| 手術終了時 | PONV予防② | オンダンセトロン 4mg IV(30秒以上かけて) |
| N2O中止後 | 低酸素予防 | 100% O2 3〜5分間投与 |
| 頭痛発症時 | 鎮痛 | アセリオ® 1000mg IV(15分かけて) |
| PONV発症時 | 救済制吐 | ドロレプタン® 0.625mg IV |
⚠️ 9. 臨床上の注意点
9-1. 鎮痛薬使用時の注意
| 薬剤 | 主な注意点 |
|---|---|
| アセリオ® | ・投与速度厳守(15分以上) ・重篤な肝障害には禁忌 ・アルコール多量常飲者では肝障害リスク↑ ・他のアセトアミノフェン含有薬との併用注意 |
| ロピオン® | ・ニューキノロン系抗菌薬との併用禁忌(痙攣リスク) ・消化性潰瘍、腎機能障害患者には慎重投与 ・他のNSAIDsとの併用は避ける |
9-2. 制吐薬使用時の注意
| 薬剤 | 主な注意点 |
|---|---|
| オンダンセトロン | ・急速静注でめまい(30秒以上かけて投与) ・6時間以内の再投与は無効 ・QT延長(4mg投与では臨床上問題少) ・CYP2D6超高速代謝者では効果減弱の可能性 |
| デキサメタゾン | ・効果発現に2時間→導入時に投与 ・糖尿病患者では一過性血糖上昇 ・会陰部不快感(急速静注時) |
| ドロペリドール | ・鎮静作用(約25%) ・錐体外路症状 ・QT延長(PONV用量では臨床上問題少) |
| プリンペラン | ・単独での予防効果は限定的 ・遅発性ジスキネジアのリスク(長期反復投与時) ・12時間以上の投与間隔を空ける |
🎯この記事のまとめ
一般の患者さんへ
- 笑気麻酔は安全性の高いリラックス効果のある麻酔法です
- 頭痛や吐き気が起こることがありますが、適切な予防と治療で対処可能です
- 当院では最新のエビデンスに基づいた副作用対策を行っています
- ご不安な点があれば、遠慮なくご相談ください
医療従事者の方へ
- N2O使用時はApfelスコアに関わらず予防薬2剤以上を推奨
- デキサメタゾンは麻酔導入時に投与(効果発現に2時間)
- オンダンセトロンは手術終了時に投与(6時間以内の再投与は無効)
- N2O中止後は100%酸素を3〜5分間投与(拡散性低酸素症予防)
References
1.Apfel CC, et al. A simplified risk score for predicting postoperative nausea and vomiting. Anesthesiology. 1999;91(3):693-700.
2.Myles PS, et al. Nitrous oxide and perioperative morbidity. Lancet. 2015;385(9979):1690-1694.
3.Peyton PJ, et al. Severe nausea and vomiting in the ENIGMA-II trial. Anesthesiology. 2016;124(5):1032-1040.
4.Fink BR. Diffusion anoxia. Anesthesiology. 1955;16(4):511-519.
5.アセリオ静注液 添付文書. テルモ株式会社. 2023年10月改訂.
6.ロピオン静注 添付文書. 科研製薬株式会社. 2024年4月改訂.
7.オンダンセトロン注4mgシリンジ「マルイシ」 添付文書. 丸石製薬株式会社. 2022年2月改訂.
8.Gan TJ, et al. Fourth Consensus Guidelines for the Management of Postoperative Nausea and Vomiting. Anesth Analg. 2020;131(2):411-448.
9.ドロレプタン注射液 添付文書. 第一三共株式会社. 2023年6月改訂.
10.プリンペラン注射液 添付文書. 日医工株式会社. 2023年8月改訂.
11.日本麻酔科学会. オンダンセトロンとグラニセトロン「術後悪心嘔吐」の保険適用について. 2021年8月.
※本記事は2025年1月時点の情報に基づいています。最新の添付文書・ガイドラインをご確認ください。
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