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眼内レンズ度数計算について
IOL power calculation

眼内レンズ(IOL)度数計算とは、白内障手術後に望ましい屈折を得るために最適なIOL度数を決定するプロセスである。眼科医が最も行う手術、つまり白内障手術におけるIOL度数計算はもっとも眼科医の興味のある事項であるし、最も臨床眼科手術において影響のある事項である。以下はIOL計算に係る原理などの内容を含み、眼科医にとっても難易度の高い内容かもしれないが、自身のIOL度数計算、臨床レベルの向上には重要であるため、可能な限りわかりやすく噛み砕いて示すこととする。いずれもデータ、記述は著者の過去の記載から変更、引用する。

重要なIOL計算における特徴

  • 正確な眼内レンズ度数計算は、術前の生体データの精度とIOL計算式の正確さに依存する。
  • インターフェロメトリーやswept source OCTを用いた新しいバイオメーターは精度を向上させ、測定可能なバイオメトリック・パラメーターの数を増やした。
  • 短眼軸、長眼軸眼、円錐角膜類縁眼、角膜屈折矯正手術や角膜形成術を受けた眼など、特殊な眼では眼内レンズの度数計算の精度が低下。それに特化した計算式を用いることで誤差を軽減させる。アメリカ白内障屈折矯正手術学会(American Society of Cataract and Refractive Surgery)の屈折矯正後眼内レンズ計算ツールは便利なツールである。
  • トーリックIOLのトーリシティを選択する際には、トーリック度数計算式を用いる。トーリック眼内レンズのアライメントのための画像システムとガイダンスシステムが有用。

(1)バイオメトリー、(2)眼内レンズの度数計算、(3)短眼、長眼、角膜屈折矯正手術や角膜形成術を受けたことのある眼など、特殊な眼における眼内レンズの度数計算、(4)トーリック眼内レンズの選択。(5)IOL逢着、強膜内固定眼におけるIOL度数計算について記す。

バイオメトリー

正確な生体計測は、白内障手術後に予測可能な術後屈折を達成する上で極めて重要である。超音波生体測定の時代、Norrbyは眼内レンズの度数計算における誤差の原因を分析し、3つの最も大きな誤差の原因は軸長(AL)、有効水晶体位置(ELP)、術後屈折であり、全誤差の79%を占めると結論づけた。バイオメトリーの進歩により、今日、主な誤差の原因はELP、角膜度数、屈折であるとされる。

光学的バイオメトリー

オプティカルバイオメトリーは、著しく正確で再現性が高いことが示されており、AL測定のための最も一般的な方法となっている。世界的に広く一般的に使用されている光学バイオメーターは、IOLMaster700(Carl Zeiss Meditec, Jena, Germany)、Eyestar900(Haag-Streit, Koeniz, Switzerland)、Argos(Alcon)である。

- IOLMaster
IOLMaster 500は、最初の光学バイオメーターとして2000年に発売された。部分コヒーレンス干渉計技術に基づき、780nmのレーザーダイオードを使用してALを測定する。ケラト、前房深度(ACD)、White to White(WTW)も測定できた。さらに新しいバージョン(IOLMaster 700)は、テレセントリックで距離に依存しないケラトメトリー測定が可能な光学構成を採用。光干渉断層計(SS-OCT)を使用して、AL、中心角膜厚(CCT)、水晶体厚(LT)、True K(全角膜屈折)、瞳孔経、瞳孔位置を測定することが特徴である(図)。眼球全体を縦断した解剖学的詳細を示す全長OCT画像が表示される。

図 IOL master700 による測定結果

Argos(Alcon)は区分屈折を用いている点で非常に特徴的である。眼球全体を一つの屈折率として眼軸長を求める、他社とはことなり、角膜、前防水、水晶体、硝子体それぞれの屈折率を用い眼軸長を測定している。メリットは長眼軸など眼軸長が実際とズレやすい場合の精度は向上する可能性がある。デメリットはその分誤差をよびこむ。現状では角膜後面を測定できない。

図 Argosによる測定結果

Eyestar900は一番後発のバイオメトリー機器である。一番の特徴は高精度の前眼部OCT機能を持っている点、Hill-RBF3.0、Barrett Universal (measured)が搭載されている点であろう。バイオメトリー機としては最もポテンシャルのある機器であるが、ソフトの開発が途上であり、角膜全屈折値がまだ表記できていない(図)。ソフトが全て揃うと非常に大きなインパクトを与えてくれる可能性を秘めている。前眼部OCT複合機として考えると2 in 1でこのサイズは非常にコンパクトである(図)。

図 Eyestar900による測定結果

図 各社バイオメトリー器
左から Eyestar900、Argos、IOL master 900

図 各社バイオメトリー機の特徴と特性
IOL master 700 Argos Eyester900
眼軸測定方法 等価屈折 区分屈折 等価屈折
波長 1035 nm ~ 1080 nm 1050nm ~ 1080nm 1060nm
角膜前面測定点数 18 16 32
角膜前面測定方法 spot LED 反射式 spot LED 反射式 spot LED 反射式
反射式デュアルゾーンケラトメトリー
角膜後面測定 有り 無し 有り
全角膜屈折値 有り 無し 無し(予定あり)
中心角膜厚CCT 有り 無し 有り
瞳孔経 有り 有り 有り
瞳孔位置 有り 無し 有り
角膜後面測定本数 12本 無し 無し(マンダラスキャン)
最新計算式 BU TK Barret true AL Hill RBF , Barret (measured)
Lasik後式 Barrett TK True K、Barrett True K(K値)、Haigis(TK値)、Haigis-L(K値)、Holladay2(TK値) Barrett True K(K値) BU TrueK、Shammas no-history、Masket/Modified Masket
その他の特徴 トーリックIOL計算、CALLISTO eye用の前眼部画像撮影機能 Verionと一体化 ゼルニケ解析、前眼部OCT機能(オプション)円錐角膜評価(オプション)拡張12mm径トポグラフィー(オプション)

眼内レンズ度数計算式

最初の眼内レンズ度数公式は1967年にFyodorovによって発表され、現在第6世代式に発展してきている。それらも一般眼科スタッフ、医師にとっても当たり前であるが、その式の成り立ち、内容を知ることはより制度の高い結果を臨床にて導き出すことに重要である。

- 2変数式
Holladay 1、Hoffer Q、SRK/Tは、ALとケラトメトリーを使用して、ELPを計算する。そのため短眼軸やフラット角膜眼は前房が浅見積もられる。Haigis式はALとACDを使ってELPを計算する。

- 5変数の公式
6世代式の代表であるBarrett Universal II (BUII)式は、AL、ケラトメトリー、ACD、LT、WTWを使用する。

- 7変数の計算式
Holladay 2式は、術前の屈折、年齢、AL、角膜測定、ACD、LT、WTWを使用する。

Raytracing式

- PhacoOpticsでは、正確な光線追跡(屈折のスネルの法則)に基づいて眼内レンズの度数計算を行う。その手法は術前のACDとLTと術後の術後ACDの関係に基づく最新世代のACD予測アルゴリズムである。円錐係数(Q値)、角膜後面曲率の測定値使用することができる。開発者のThomas OlsenにちなんでOlsen公式としても知られている。

AI式

- 放射基底関数(RBF)
Hill-RBFがその式の代表である。パターン認識を使用した眼内レンズ度数選択のための人工知能ベースの自己検証法であり、データ補間の洗練された形式。眼内レンズの度数を選択するためのパターン認識は、データのみに基づく適応学習のプロセスを通じて達成される。静的な理論式とは異なり、「ビッグデータ」に連動して継続的に更新される、動的計算式である。RBFモデルに適合する手術結果の数が多ければ多いほど、全体的な精度の深さは増す。バージョン3.0がリリースされ、長眼軸眼と短眼軸眼のデータが統合されそれに対応するようになった。

- Pearl-DGS式
この計算式は、光学モデリングと機械学習モデリングを組み合わせにて作成されている。

- ニューラルネットワーク
ClarkeとBurmeisterは、ニューラルネットワークに基づく式を開発。1人の外科医が1つの眼内レンズを使用した大量の臨床データを使用して、眼内レンズの度数を予測するようにソフトウェアが訓練される。

組み合わせ式

- スーパーフォーミュラ
Ladasのスーパーフォーミュラは、前述の2変数と3変数のvergence式の結果を統合したもので、人工知能の要素を持っている。

- Kane式
理論光学に人工知能と回帰ベースの要素を加えて予測を精緻化した。K、AL、ACD、LT、CCT、生物学的性別をデータポイントとして使用する点がユニークである。

- EVO式
屈折理論に基づいたThick lensの式である。( https://www.evoiolcalculator.com/)。

上記紹介した式はすべて回帰の要素を含んでいる。角膜後面曲率(これは徐々に統合されつつあるが)とELPが実測値ではないことが特筆すべき点である。ELPを推定するためのより良い予測式は、おそらくレンズの直径、レンズの体積、レンズの構造、角膜、眼球収差、特定の角度と虹彩の特徴を含む、より洗練された測定が必要になると思われる。ESCRSウェブカリキュレーターは現状最新の6世代式を複数同時に計算することができ非常に便利である(https://iolcalculator.escrs.org/)。

図 ESCRS ウェブカリキュレーター

特殊な眼における眼内レンズの計算

短眼軸眼における眼内レンズの度数計算

短眼軸の場合、眼内レンズのパワーが高く、眼内レンズから網膜までの距離が比較的短いため、正確なELP予測の重要性が増す。術後ACDの0.25mmの誤差は、ALが30mmの長眼では0.10Dの誤差に相当し、ALが20mmの短眼では0.50Dの誤差に相当する。
ELPの計算にACDを使用しないIOL計算式では、短眼軸眼ACDは比例して浅く見積もることが考えられる。この仮定は、実際には正常な深さのACDを持つ短眼軸眼で理論崩壊する。ELPの不確実性と眼内レンズの高出力のため、これらの眼での計算は特に問題となる。

長眼軸眼における眼内レンズの度数計算

長眼軸の場合、旧世代IOL計算式では術後に遠視の患者が残る事が多い。術前のAL測定の不正確さが、軸性強度近視の術後屈折異常の主な原因であるされる。
BUII、Kane式とHill-RBF式の開発により、長眼軸眼での結果も大きく改善した。Olsen、 Pearl-DGS式との公式でも良好な結果が報告されている。
前述の通り長眼軸眼では眼内レンズの度数が低いため、ELPの推定精度は正常眼や短眼軸眼ほど重要ではないが、現在の公式で使用されているAL値を改良することで、優れた結果を期待することができる。

角膜屈折矯正手術歴のある眼の眼内レンズ度数計算

PRK、LASIK、放射状角膜切開術(RK)術後眼のIOL計算において、正確な角膜屈折力の測定が困難であることと、ELP予測に問題があるという2つの主要な課題に我々は直面している。ELPに関連した眼内レンズの予測誤差を回避するために、Aramberriはdouble-K法を提案。角膜屈折矯正手術前の角膜度数を用いてELPを推定し、屈折矯正手術後の角膜度数を用いて眼内レンズの度数を計算するというものである。この様に屈折矯正後の眼における眼内レンズの度数計算の精度を向上させる方法は、過去のデータをどの程度利用するかによって、3つのグループに分類することができる。

1.過去の臨床データのみを用いる方法

このカテゴリの方法は、角膜度数を推定するために過去のデータのみを使用する。しかし、他の2手法に比べ精度が低く現状用いられることは少ない。過去に得られたデータの誤差に敏感であるために、その測定誤差がそのまま術後屈折誤差になってしまう。

2.矯正屈折力変化と現在の角膜度数値の組み合わせを使用する方法

白内障術前のケラトまたは計算された眼内レンズ度数を屈折矯正手術による屈折率変化(⊿MR)をもとにアレンジする手法である。
これらの方法では、0.15から0.33の間数値をΔMRに掛けて計算する。これは、∆MRの誤差1.0 Dにつき0.15~0.33 Dの誤差に相当することを本にしている。比較的精度の高いアプローチの一つであることが示されている。

3.過去のデータを必要としない方法

国際的にも最も用いられる手法であろう。計算式は2つのカテゴリーに分類される

  • - Wang-Koch-Maloney 式、Shammas 式、Haigis-L 式、Potvin-Hill Pentacam 式、Barrett True K No History 式など、角膜前面から測定した角膜度数を回帰分析または角膜後面度数の想定に基づいて調整する式。
  • - ガリレイやOCTによる全角膜屈折力など、角膜の前面と後面の両方から測定した角膜度数に基づいて式。Barrett True Kでは、IOLMaster 700にてTrue Kとして全角屈折値を使用することができ、0.50 D以内の精度が72%程度である。

過去のデータを必要としない方法は、∆MR と現在の角膜度数値の組み合わせを使用する方法と同程度の性能を示すことが示されている。そのため、現在は過去データを用いない式が一般的となってきている。角膜屈折矯正術後は角膜形状の不整が強く、正しい角膜屈折値を現状の機械では測定できていない。そのため、精度が低めである。

ウェブベースの角膜屈折術後計算

複数の式を串刺しに結果を見ることができるウェブページがASCRSホームページから提供されている。近視または遠視のLASIK/PRKまたはRK術後のIOL計算式である。この計算機は定期的に更新され、年間100万回以上使用されている。

放射状角膜切開 RK

RK眼の眼内レンズの度数計算は、角膜前面の曲率や角膜後面の曲率の変化がより不規則であるため、さらに困難である。さらに、RK眼の20%~50%は、徐々に遠視化してゆく。それらの対策のため、中央2~4mmゾーンの平均角膜度数(フーリエ変換正乱視平均角膜屈折度数)を使用するほうが望ましい。

円錐角膜における眼内レンズの度数計算

角膜不整な凹凸と角膜前方曲率と角膜後方曲率の比率の変化のため、IOL計算がより困難となる。SRK/Tを用い、円錐角膜ステージにわけ、+1D~1.5Dを加味してIOL選択する方法がばらつきなく少ないとする報告もある。6世代式で言うならば円錐角膜をターゲットとしたウェブカリキュレーターがKane式,  Barrettはまた、アジア太平洋白内障屈折矯正外科学会(Asia-Pacific Association of Cataract and Refractive Surgeons)のウェブサイト( https://www.apacrs.org/)のTrue K式で円錐角膜計算オプションを提供している。しかし、まだまだ、角膜測定の甘さが露呈されている分野かと思われる。

PKP術後の眼におけるIOL度数計算

PKP術後の眼は、角膜前方および後方の曲率が非常に不規則である。角膜移植術者の角膜縫合のくせに大きく寄るが、3D程度の遠視化が想定されるため、それくらいは近視化させてIOL選択を行うようにする。内皮角膜移植術(DSAEK)では、角膜度数の変化はそれほど顕著ではなく、乱視の変化は最小限であるが、0.70~1.50D程度の遠視性シフトがある。デスメ膜内皮角膜移植術(DMEK)では、さらに控えめな屈折力変化が生じ、0.24~0.50Dの遠視性屈折力シフトがある。屈折性乱視の変化は最小限である。内皮角膜形成術を同時に、あるいは将来的に行う場合は、それに応じて屈折目標を調整しIOL度数選択を行うようにする必要がある。

トーリックIOLの計算

筆者の執刀患者15000眼を調査すると白内障患者の角膜乱視の中央値は0.78Dであった。移植眼内レンズが単焦点の場合は0.75D以上の乱視、多焦点IOLであれば全ての乱視を矯正するほうが裸眼視力は良い。残す乱視は絶対値的に少ないほうが良く、経時的乱視変化や視機能認知の問題よりどちらかといえば倒乱視より直乱視に残す方が良い。トーリックIOLの度数計算は度数が少ないため問題になりにくく、式もそこまで複雑でもないため、今回は割愛し、別の企画にて詳細に示したい。

術中アベロメーター

WaveTec Vision Systems, Inc. の ORange 術中波面収差計は、市販された最初の術中波面収差計である。タルボットモアレ干渉法を利用しており、特定の角度と距離でオフセットされた 2 つの格子を含むシステムで、波面が格子を通過するときに干渉縞パターンを生成する。この干渉縞パターンが分析され、球面、円柱、軸に関する情報が得られる。ORange は手術用顕微鏡に取り付けられ、範囲は -5 ~ +20 D で計測可能である。無水晶体および偽水晶体の両方の測定を手術室で行い、IOL パワーの選択と乱視軸を示すことが可能である。2012 年、WaveTec は光学系 (レーザー光ではなく超発光ダイオード)、アルゴリズムなどが改善された ORange の後継機 ORA をリリース。記した通り、眼球refractionのみからIOL度数を計算する。バイオメトリー機器よりも必ず正しいIOL度数を提案するとは言い難いが、参考値にはなり得る。乱視軸の確認には有用であろう。

IOL逢着、強膜内固定術の度数計算

IOL逢着の場合、チン小帯断裂が発生していることもおおく、また、すでにレンズが前房に無いケースも多い。術前のACD、LTが使い物にならないということである。この場合、6世代式は全く用いることはできず、SRK/Tに代表される旧世代式を用いるしか現状ない。しかし、筆者の様に数百~1000眼の逢着、強膜内固定術の経験のある術者でも、その術後屈折誤差は単純な白内障手術(SRK/T式で度数計算)に標準偏差としてまさることは無い。IOLの固定にマニュアルな部分が多く、特に強膜内固定の場合はその因子が多くばらつく。手技としてそのようであるために6世代式を要求することは今のところはない。しかし、最終屈折値は嚢内固定と同様ではなく、IOLハプティクスと強膜内固定開始位置との関係はしっかりと認識しておく必要がある。筆者らの研究より輪部から2mm固定が嚢内固定に近い前房深度、屈折値になることがわかっている。回帰式を下記に示す1)(図)。

図 強膜内固定位置と嚢内固定のACD、屈折誤差の関係

■輪部から1.5 mm固定
Predicted refraction power (D) = SRK/T expected refraction power − 0.59
■輪舞から2.0 mm固定
Predicted refractive power (D) = SRK/T expected refractive power + 0.019

最後に

白内障手術におけるIOL度数計算は昔からの眼科医にとっての大きな課題となってきていた。それは、長期経過して度数ズレが発生したときにIOLが交換できないことによる。IOL度数計算は成熟を迎え、おそらくは現状の検査機器の精度では頭打ちであろう。人工水晶体嚢のようなデバイスの開発は長期経過のIOLについても交換可能な可能性があるとなってきていることは、白内障手術も新しいステージに入ってきているのかもしれない。

1)Noguchi S. Relationship between Postoperative Anterior Chamber Depth and Refraction Based on the Haptic Fix Position in Intraocular Lens Intrascleral Fixation.-J Clin Med. 2023 Feb 24;12(5):1815.