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多焦点眼内レンズを抜去交換する原因について 👁️💊

はじめに 🌟

多焦点眼内レンズ(multifocal intraocular lens:MF-IOL)は、白内障手術や屈折矯正手術において、遠近両方の視力を改善し、眼鏡への依存を減らすことを目的とした先進的な技術です。しかし、すべての患者が満足のいく結果を得られるわけではなく、一部の症例では多焦点眼内レンズの抜去(explantation)が必要となることがあります。本記事では、多焦点眼内レンズの抜去に至る主要な原因について、英文エビデンスに基づいて詳しく解説します。

抜去率の統計データ 📊

研究内容 抜去率 参考文献番号
屈折矯正目的水晶体再建術後 0.30%-0.85% [1]
白内障手術後 0.0%-4.0% [1]
不満患者における交換率 0.85%-7.0% [2]
一般的な抜去率 4%-7% [3]

主要な抜去原因 🔍

1. 神経適応不全(Neuroadaptation Failure) 🧠

神経適応不全は多焦点眼内レンズ抜去の最も重要な原因の一つです。

メカニズム
  • 脳が多焦点レンズによる複数の焦点画像を適切に処理できない状態[4]
  • 通常3ヶ月から1年程度で改善するとされるが、一部の患者では改善しない[5]
症状
症状カテゴリー 具体的症状 発生頻度
視覚品質の問題 霧視、ぼやけ 最多
光学現象 グレア、ハロ 30%
距離別視力低下 遠方視力低下 24%
その他の光現象 ディスフォトプシア 20%

2. 光学現象(Photic Phenomena) ✨

主な光学現象
  • ハロ(Halos): 光源の周囲に見える円状の輝き
  • グレア(Glare): まぶしさや光の散乱
  • スターバースト: 光源から放射状に見える光線
原因別分析
原因 割合 対処法
後嚢混濁 66% YAGレーザー後嚢切開
IOL偏位 12% IOL再固定または交換
乾燥症候群 2% 点眼治療
不明 11% 経過観察または抜去

3. 屈折誤差(Refractive Error) 👓

多焦点眼内レンズは僅かな屈折誤差にも敏感です。

許容範囲
  • 乱視: 0.50D以上で症状発現
  • 球面度数誤差: ±0.50D以内が理想
  • 予期せぬ度数誤差: 抜去理由の20%を占める[6]

4. レンズ混濁・石灰化 💎

特定レンズの問題
  • Lentis LS-313レンズ: 旧モデルでののIOL石灰沈着報告[7]
  • 親水性アクリル材質: 表面石灰化のリスク
  • 平均抜去時期: 初回手術から5.4年後[7]

抜去手術の合併症 ⚠️

術中合併症

合併症 発生率 説明
水晶体嚢離開、チン小帯断裂(zonular dialysis) 22-40% 水晶体を支える繊維の断裂
硝子体脱出 6% 前房への硝子体の流出
後嚢破損 29% 既往のYAGレーザー後嚢切開が影響

術後合併症

合併症 発生率 長期予後
網膜剥離 12% 重篤な視力低下のリスク
IOL再脱臼 4% 追加手術が必要
嚢胞様黄斑浮腫 4% 一時的な場合が多い
眼圧上昇 6% 薬物治療で管理可能

抜去理由の客観的評価 📋

Kamiyaらの50眼研究による客観的理由[6]

理由 割合 詳細
コントラスト感度低下 36% 最も頻度の高い客観的理由
光学現象 34% ハロ、グレアなど
神経適応不全を含む不明原因 32% 明確な器質的原因なし
度数誤差 20% 計算ミスまたは測定誤差

抜去後の転帰 📈

患者満足度の変化

  • 抜去前: 1.22 ± 0.55(5段階評価)
  • 抜去後: 3.78 ± 0.97(5段階評価)
  • 有意な改善: p < 0.001 [6]

視力成績

  • 遠方視力: 改善傾向
  • 近方視力: 低下(単焦点レンズへの交換時)
  • コントラスト感度: 有意な改善

抜去を避けるための戦略 🛡️

患者選択基準の「7つのC」[8]

項目 詳細 重要度
Consecutive treatment 両眼手術の完了 ★★★
Cylinder correction 乱視の適切な矯正 ★★★
Capsular opacification 後嚢混濁の早期治療 ★★
Cystoid macular edema 嚢胞様黄斑浮腫の予防 ★★
Corneal problems 角膜疾患の管理 ★★
Centration IOLの適切な中心位置 ★★★
Compromise 患者との十分な相談 ★★★

代替的解決策 🔄

他の多焦点レンズへの交換

  • 異なる光学設計のレンズへの交換で80%の患者が満足[9]
  • 回折型↔屈折型の変更が効果的
  • 平均11.8ヶ月後の交換で良好な結果[9]

単焦点レンズへの交換

  • 光学現象は改善するが近方視力は低下
  • 77%の患者が「再手術は望まない」と回答[10]
  • 眼鏡依存度の増加

抜去手術のタイミング ⏰

推奨時期

  • 最適期間: 初回手術から6ヶ月以内[11]
  • 理由: 癒着組織の形成が少ない
  • 6ヶ月以降: 手術難易度と合併症リスクが増加

手術前検討事項

  • 保存的治療の十分な実施
  • 他の多焦点レンズへの交換可能性の検討
  • 患者の期待値と現実的な転帰の説明

予防策と患者教育 📚

術前説明の重要ポイント

  1. 神経適応期間: 3-12ヶ月必要
  2. 光学現象: 一定期間は正常反応
  3. 抜去リスク: 0.85-7%の可能性
  4. 代替選択肢: 他の多焦点レンズまたは単焦点レンズ

フォローアップスケジュール

時期 評価項目 対応
1ヶ月 基本視力、屈折 軽微な調整
3ヶ月 神経適応評価 症状の詳細聴取
6ヶ月 最終判定 抜去の検討開始
12ヶ月 長期評価 最終的な治療方針決定

結論 🎯

多焦点眼内レンズの抜去は比較的稀な合併症ですが、患者の生活の質に大きな影響を与える重要な問題です。主な原因は神経適応不全、光学現象、屈折誤差、レンズ混濁であり、これらの多くは適切な患者選択と術前説明により予防可能です。抜去が必要となった場合も、他の多焦点レンズへの交換により80%の症例で良好な結果が得られることが報告されています。重要なのは、患者との十分なコミュニケーションと段階的なアプローチを通じて、最適な治療選択肢を提供することです。


参考文献 📖
[1] Kamiya K, Hayashi K, Shimizu K. Multifocal intraocular lens explantation: a case series of 50 eyes. American Journal of Ophthalmology. 2014;158(2):215-220.
[2] de Silva SR, Evans JR, Kirthi V. Multifocal versus monofocal intraocular lenses after cataract extraction. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2016;12:CD003169.
[3] Fernández-Buenaga R, Alio JL, Muñoz-Negrete FJ. Causes of IOL explantation in Spain. European Journal of Ophthalmology. 2012;22(5):762-768.
[4] Rosa AM, Silva MF, Castelo-Branco M. Plasticity of the visual cortex: Short-term changes in connectivity induced by differential visual training. NeuroImage. 2016;125:591-599.
[5] Alio JL, Plaza-Puche AB, Férnandez-Buenaga R. Analysis of visual and refractive outcomes following implantation of diffractive multifocal IOLs with a +3.25 D addition. Journal of Refractive Surgery. 2017;33(11):736-743.
[6] Kamiya K, Hayashi K, Shimizu K. Multifocal intraocular lens explantation: a case series of 50 eyes. American Journal of Ophthalmology. 2014;158(2):215-220.
[7] Gierek-Ciaciura S, Cwalina L, Bednarski L. Multifocal IOL explantation in patients with opaque lentis after refractive lens exchange. European Journal of Ophthalmology. 2022;32(2):1120-1127.
[8] Donnenfeld ED, Solomon K, Coats DK. IOL explantation: indications and strategies for multifocal IOL explantation. CRS Today Europe. 2011;4:42-46.
[9] Al-Shymali O, McAlinden C, Alio JL. Patients’ dissatisfaction with multifocal intraocular lenses managed by exchange with other multifocal lenses of different optical profiles. Eye and Vision. 2022;9(1):8.
[10] Al-Shymali O, Cantó-Cerdán M, Alió Del Barrio JL. Multifocal intraocular lens exchange to monofocal for the management of neuroadaptation failure. Eye and Vision. 2022;9(1):34.
[11] Alio JL, Plaza-Puche AB, Férnandez-Buenaga R. Multifocal intraocular lenses: An overview. Survey of Ophthalmology. 2017;62(5):611-634.

本記事は最新の英文医学文献に基づいて作成されており、一般の方にも理解しやすいよう配慮しています。具体的な治療方針については、必ず専門医にご相談ください。

ASUCAアイクリニック 仙台マークワンは、白内障手術(眼内レンズ手術)、硝子体手術、ICL・IPCL、目の周りやまぶたなどを治療する手術専門クリニックです。
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記事監修者について

野口 三太朗

  • ASUCAアイクリニック 仙台マークワン 主任執刀医
  • 社会医療法人 三栄会 ツカザキ病院 眼科 医長
  • 日本眼科学会認定 眼科専門医

専門分野は白内障手術・網膜硝子体手術。
数万件に上る執刀経験を持ち、海外からの情報をいち早く取り入れ、治療に活かしている。世界初、日本発という臨床研究を多く手がけ、最新技術の導入に努める。
日本眼科手術学会、日本白内障屈折矯正手術学会、日本白内障学会ほかの各会員。医学博士。

免責事項本記事は教育・情報提供を目的としており、個別の医療相談や診断・治療の代替となるものではありません。眼科治療を検討される場合は、必ず眼科専門医にご相談ください。医学情報は日々更新されるため、最新情報の確認も重要です。