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世界のスタンダード手術 強膜内固定術
~チン小帯断裂、眼内レンズ脱臼に対して~

現在、チン小帯が断裂している場合、眼内レンズは強膜という白眼に縫い付けて固定するしか方法はありません。従来、糸を用いて眼内レンズを強膜に縫い付ける手術が主流でした。しかし、近年眼内レンズを直接、糸を使わずに強膜に固定する、強膜内固定術が主流となっています。私は2011年頃より、完全に強膜内固定術に移行しており、自身としてこの手術については熟練した技術があると自負しています。少なくとも自身が働いている地域では最も信頼を得られていると思われます。術者としての技量の差が非常に出やすい術式で、手術時間などに大きく差が発生しやすいです。
しかし、多くの課題がまだ残っており、それについて臨床研究を行い、論文を執筆しております。強膜内固定術における、術後屈折誤差と虹彩捕獲(虹彩という茶色眼が眼内レンズにひっかかる)についての研究です。英語で読みたい方は下記にて全文読むことが出来ます。オープンアクセスです。


Santaro Noguchi. Relationship between Postoperative Anterior Chamber Depth and Refraction Based on the Haptic Fix Position in Intraocular Lens Intrascleral Fixation. J Clin Med. 2023 Feb 24;12(5):1815.

https://www.mdpi.com/2077-0383/12/5/1815

強膜内固定とは

2007年にGaborとPavlidisによって初めて報告され、その後、山根氏らによって報告された非フラップ式二重針技術やフランジ強膜内IOL固定技術について報告されています。
通常の白内障手術と同様、技術の簡素化が結果の安定化と合併症の減少につながり、視力改善を目指すことが可能となりました。
しかし、強膜内固定法(ISF)を行う際に、縫合式IOL固定で時折観察される虹彩捕獲の合併症が、縫合なしIOL固定でも生じることがあります。これは長期的に発生する可能性があり、術後のモニタリングにおいて考慮する必要があります。
ISFの全てが通常白内障手術(嚢内固定)で用いられるようなレンズ計算式、つまり、前房の深さやレンズの厚みを術前の計算式のパラメータとして使用することはできません。したがって、現在最も有用とされているのはSRK/T式で、これは角膜の屈折力と眼軸長から予想屈折を得ることができます。
しかしながら、ISFと嚢内固定とではIOL固定位置が異なることが予想されます。

この研究では、ISFのIOLの位置が術後の屈折および結果となる屈折誤差にどのように影響を与えるのかについて詳細な結果を導き出しました。また、IOLの深い固定位置は虹彩とIOLの間の距離を長くするため、虹彩捕獲の頻度も低くなると予想されます。
本研究は、ISFにおける術後の前房深度(ACD)と術後の屈折との関係性、および逆瞳孔ブロックの頻度の違いについて比較検討するためにセッティングされました。

術式(野口)

術式

A: Open the IOL inside the anterior chamber and position above the iris. The posterior haptics are left outside the eye.
B: Grasp the anterior haptics with microforceps and insert into a 30G thin wall needle.
C: Pull both haptics outside the eye and fine-tune centering of the lens.
D: Cut the haptics at an appropriate length.
E: Cauterize ends of the haptics into a flange.
F: Embed the flanged haptic ends in the sclera to fix the IOL.

術後写真(多焦点眼内レンズ強膜内固定)

術後写真(多焦点眼内レンズ強膜内固定)

A: ZMA00(多焦点眼内レンズ) had shifted and had shifted downward before surgery.
B: ZMA00 is fixed at the center with no tilt, one week after surgery.
C, D: The flanged haptics are buried in the sclera and are barely visible.

方法

全例 野口による執刀の症例にかぎります。100眼のISF症例のデータです。
手術は角膜輪部からIOLの強膜固定位置への距離によって2つのグループに分けられ、1.5mmの場合と2.0mmの場合で比較されました。
手術後3ヶ月に、正確な距離視力と明示的な屈折球等価(MRSE)を測定しました。
術後に虹彩捕獲が起こったかどうかも調査しました。

結果

1.5mmグループと2.0mmグループの両方で術後3ヶ月には明示的な屈折球等価(MRSE)が測定され、両グループ間で有意差が確認されました。
術後の前房深度(ACD)も両グループで測定され、明らかな差が見られ、2.0mmの方が深かったです。
2.0mmの固定が嚢内固定とほぼ同等の位置になることが分かりました。
虹彩捕獲の発生率は1.5mm、2.0mmグループ両群で差は認められなかった。
2.0mm固定の方が遠視化した術後MRSEとなった。

結果

討論

研究結果は、角膜内固定の深さが術後の屈折に影響を与え、ますが、虹彩捕獲の頻度は変わらないことが分かります。
この二群間でのIOLの2.0mm固定位置が虹彩捕獲の頻度を減らす可能性は無いことが示唆されます。虹彩捕獲は術後の視力に悪影響を及ぼす可能性があるため、これは重要な発見です。

結論

0.5mmの固定位置の変更で0.6Dの遠視化が得られます。
角膜内固定の位置は、術後の屈折結果と虹彩捕獲の発生率に影響を与えることが示されました。
これらの結果は、術前検査におけるIOLの位置の決定に重要な研究結果です。
この研究の結果をもとに、より正確な術前の計画と術後の予測が可能となることが期待できます。


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