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放射状角膜切開術後の眼内レンズ度数計算:特有の課題と最新アプローチ

放射状角膜切開術(Radial Keratotomy, RK)は1980~90年代に近視矯正のために広く行われた手術であり、現在これらの患者が白内障手術の年齢に達しています。RK後の眼内レンズ(IOL)度数計算は、通常眼と比較して著しく難しい課題となっています。

RK眼の特殊性

RK後の角膜は独特の特徴を持ちます。放射状に配置された複数の切開創により、角膜中心部は平坦化し、周辺部との差が生じます。また、日内変動が大きく、調節時や眼圧変化に応じて角膜形状が変化しやすいという性質があります。これらの要因により、標準的なケラトメトリーでは角膜屈折力を過小評価してしまうことが多く、結果として術後の遠視化を引き起こします。

専用計算式の発展

この問題に対応するため、2002年にMaloney氏はRK Modified Maloney Methodを提案し、角膜トポグラフィーの中心3mmゾーンから実効屈折力を算出する手法を確立しました。2004年にはAramberri氏がDouble-K Methodを応用したRK Double-K Methodを開発し、前房深度計算に術前推定K値を使用し、屈折力計算に術後K値を使用する二段階アプローチを導入しました。

最新の技術進歩

近年の技術革新により、より高度な計算手法が登場しています。2012年に導入されたBarrett True-K RK Formulaは、RK切開数を考慮して補正を行い、従来の計算式よりも高い精度を実現しています。また、2016年のOCT-Based RK Assessment Methodは、光干渉断層計(OCT)を用いて角膜前後面の実測値や切開深度を評価し、より正確な角膜屈折力を推定します。
特に注目すべきは2019年のKoch-Wang RK Methodで、角膜トポグラフィーとOCTデータを統合し、切開数や深度まで考慮した包括的アプローチを提供しています。

臨床的推奨

実際の臨床現場では、単一の計算式ではなく複数の方法を併用することが推奨されています。ASCRSオンラインカリキュレーターを利用して複数の計算結果を比較検討することが一般的です。また、術前測定は同日の複数時間帯に行い、日内変動の影響を評価することも重要です。
さらに、術中収差計測(Intraoperative Aberrometry)を活用する施設も増えており、実際の術中測定値に基づいてIOL度数を微調整できるメリットがあります。
RK後の患者には特に丁寧な術前説明が必要で、予測誤差の可能性が高いことを伝え、二次的な調整の可能性も含めた計画が重要です。技術の進歩により精度は向上していますが、RK後眼の白内障手術は依然として高度な専門性を要する分野であり続けています。

●眼内レンズ度数計算について詳しくは、眼内レンズ度数計算についてのページをご覧ください。

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記事監修者について

野口 三太朗

  • ASUCAアイクリニック 仙台マークワン 主任執刀医
  • 社会医療法人 三栄会 ツカザキ病院 眼科 医長
  • 日本眼科学会認定 眼科専門医

2006年、東北大学医学部卒業。その後、東北大学医学部眼科学教室、ツカザキ病院、石巻赤十字病院眼科などで経験を積む。2021年に大阪大学大学院博士課程修了。2022年、宮城県仙台市に位置する「ASUCAアイクリニック」の主任執刀医を務める。専門分野は白内障手術・網膜硝子体手術。
数万件に上る執刀経験を持ち、海外からの情報をいち早く取り入れ、治療に活かしている。世界初、日本発という臨床研究を多く手がけ、最新技術の導入に努める。
日本眼科手術学会、日本白内障屈折矯正手術学会、日本白内障学会ほかの各会員。医学博士。

免責事項本記事は教育・情報提供を目的としており、個別の医療相談や診断・治療の代替となるものではありません。眼科治療を検討される場合は、必ず眼科専門医にご相談ください。医学情報は日々更新されるため、最新情報の確認も重要です。