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後発白内障って?また白内障になる?
~後発白内障 (Posterior Capsule Opacification, PCO) に関する総述~

後発白内障 (PCO) は、白内障手術後の最も一般的な合併症であり、眼内レンズ (IOL) が透明性を保つはずが、水晶体上皮細胞 (LECs) の増殖により不透明化することでIOLを包んでいる水晶体嚢が混濁することで発生する。PCO は手術後の視力低下の主要な原因の一つであり、発生率は術後 3%〜50% とされる。

PCO の発生を防ぐためには、手術技術の向上、IOL デザインの改善、診断技術の進歩が重要である。本稿では、PCO の病態生理、リスク因子、診断法、治療法、最新の研究動向について解説する。

  1. 後発白内障の病態生理
  2. 後発白内障のリスク因子
  3. 後発白内障の診断と評価
  4. 後発白内障の治療
  5. 後発白内障の予防
  6. まとめ

1. 後発白内障の病態生理

1.1. 形成メカニズム

PCO は LECs の増殖により形成され、以下の 2 つのタイプに分類される。

1.1.1. 線維化型 PCO (Fibrotic PCO)
  • A 細胞が関与し、線維化と瘢痕形成を引き起こす。
  • 水晶体嚢の収縮により視力低下をまねく。
1.1.2. 再生型 PCO (Regenerative PCO)
  • E 細胞が関与し、エルシュニッヒ小体 (Elschnig Pearls) を形成する。
  • 24 時間以内に進行し、視軸を妨げることがある。

2. 後発白内障のリスク因子

PCO の発生には、患者因子、手術因子、IOL 因子が関与する。

2.1. 患者因子

  • 年齢:若年者は LECs の増殖が活発でリスクが高い。
  • 眼疾患:糖尿病やぶどう膜炎の患者は PCO リスクが増加する。

2.2. 手術因子

  • 嚢内レンズ固定の不適切な位置:IOL が水晶体嚢と密着していないと LECs の移動が容易になる。
  • 皮質の不完全な除去:残存皮質が LECs の増殖を促進する。
  • 前嚢切開 (Capsulorrhexis) のサイズ:IOL の直径よりやや小さい前嚢切開が PCO 予防に有効。

2.3. IOL 因子

  • IOL 材料:親水性アクリルは LECs の付着を抑制する。
  • IOL デザイン:スクエアエッジデザインは LECs の移動を防ぎ、PCO の発生を抑制する。

3. 後発白内障の診断と評価

3.1. 臨床評価

  • スリットランプ検査:PCO の種類と程度を観察する。
  • 視機能評価:視力低下の有無を確認する。
  • コントラスト感度検査:PCO による散乱光の影響を評価する。

3.2. 画像解析

  • 後嚢不透明度評価スコア (EPCO):0 〜 4 のスコアで評価する。
  • 後嚢不透明度自動定量化システム:デジタル画像を用いて PCO パターンを分類し、定量評価を行う。

4. 後発白内障の治療

4.1. Nd:YAG レーザー後嚢切開術

  • 標準的な治療法であり、レーザーを用いて後嚢の不透明部を除去する。
  • 合併症:眼圧上昇、網膜剥離、眼内レンズ損傷のリスクがある。

4.2. 新しい治療アプローチ

  • 薬物療法:LECs の増殖を抑制する薬剤の研究が進行中。
  • 物理的 LECs 除去:レーザーを用いた LECs 除去技術が検討されている。

5. 後発白内障の予防

5.1. 手術手技の工夫

  • 皮質除去の徹底:残存皮質を極力除去する。
  • 前嚢切開サイズの適正化:IOL の光学部が前嚢に適切に覆われるように調整する。

5.2. IOL デザインの選択

  • スクエアエッジ IOL の使用:後嚢との密着性を高め、LECs の移動を防ぐ。
  • 生体適合性アクリル IOL の採用:生体適合性が高く、PCO のリスクを低減する。
  • Endocapsular ringの採用:水晶体嚢とIOLを接着させず、前房水を還流させることで発症を抑制する。

6. まとめ

PCO は白内障手術後の主要な合併症であり、その予防には適切な手術手技と IOL の選択が重要である。今後の研究により、PCO のさらなる低減と治療の改善が期待される。特にEndocapsular ring(人工水晶体嚢に代表される)は白内障手術を変えられるかはキーとなると思われる。

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記事監修者について

野口 三太朗

  • ASUCAアイクリニック 仙台マークワン 主任執刀医
  • 社会医療法人 三栄会 ツカザキ病院 眼科 医長
  • 日本眼科学会認定 眼科専門医

2006年、東北大学医学部卒業。その後、東北大学医学部眼科学教室、ツカザキ病院、石巻赤十字病院眼科などで経験を積む。2021年に大阪大学大学院博士課程修了。2022年、宮城県仙台市に位置する「ASUCAアイクリニック」の主任執刀医を務める。専門分野は白内障手術・網膜硝子体手術。
数万件に上る執刀経験を持ち、海外からの情報をいち早く取り入れ、治療に活かしている。世界初、日本発という臨床研究を多く手がけ、最新技術の導入に努める。
日本眼科手術学会、日本白内障屈折矯正手術学会、日本白内障学会ほかの各会員。医学博士。

免責事項本記事は教育・情報提供を目的としており、個別の医療相談や診断・治療の代替となるものではありません。眼科治療を検討される場合は、必ず眼科専門医にご相談ください。医学情報は日々更新されるため、最新情報の確認も重要です。