小切開白内障手術
(Manual Small Incision Cataract Surgery、MSICS)
~古くて新しいグローバル白内障手術~
毎年、コロナ前までアフリカのモザンビークという国で失明した患者さんを手術しにボランティアに行っておりました。何も無い環境の中最高のパフォーマンスが求められ、日本の常識は何も通用しません。術式は MSICS。日本でこの手術が出来る人は何名いるでしょうか? まともにできるのは数名でしょう。 一回で200眼以上の手術を行います。一眼5分程度です。糸、染色剤もありません。そんな中、確実に見えるようにして、自分の足で歩いて生活できるようにする白内障手術です。国際学会に行くと、MSICSの術式、研究などが活発に行われています。日本ではそのような発表は行われることもありません。この術式を知っている医師すらいるかどうかでしょう。
白内障の治療のための非常に効果的で、低コストの手法です。その有用性と可及性から、開発途上国を含む世界中で広く使用されています。以下に、その概要と手順を紹介します。
小切開白内障手術(MSICS)の概要
MSICSは白内障の手術方法の1つで、特に硬い白内障(成熟白内障や黒色白内障など)や深刻な視力低下を伴う白内障の治療に有効です。
手術は局所麻酔下で行われ、患者は通常、手術中に痛みを感じません。
MSICSの最大の特徴は、その名前にもあるように、比較的小さな切開で手術を行うことです。このため、術後の合併症のリスクが低く、また術後の回復も速いとされています。
MSICSの手術の流れ
麻酔:まず手術を受ける眼を麻酔します。大部分の場合、眼表面麻酔または眼球周囲麻酔が使用されます。
切開とスクレラフラップの作成:切開は通常、強膜付近に行います。その大きさは6〜7mm程度です。次にスクレラ(強膜)のフラップを作成します。
前房穿刺と水晶体キャップセルの開放:前房(角膜と虹彩の間の空間)に穿刺し、水晶体袋(水晶体を保持する膜)の前部を開放します。これをキャップセルロトミーと言います。
水晶体の摘出:特別な器具を使用して白内障化した水晶体を摘出します。硬い白内障の場合は、まず核(水晶体の中心部)を取り出し、次にコルテックス(水晶体の周辺部)を取り出します。
人工水晶体の挿入:最後に、摘出した水晶体の代わりに人工水晶体を挿入します。人工水晶体は通常、眼内レンズ(IOL)と呼ばれ、視力を改善する役割を果たします。
切開部の閉鎖:スクレラフラップを閉じ、眼球の安定を確保します。通常は自己密着性で閉じるため、縫合は必要ありません。
MSICSの利点
MSICSは比較的短時間で行うことができ、手術時間は5分程度です。(日本国内で似た術式として嚢外摘出術 ECCEがありますが、通常30分から1時間ほどかかる場合が多いです。)
通常は24時間以内に日常生活に戻ることができます。
手術のコストが低いため、経済的にも無理がなく、開発途上国を含む多くの地域で利用されています。
以上の理由から、小切開白内障手術は白内障治療の一つの選択肢として注目を浴びています。手術の成功率は非常に高く、適切に行われた場合、視力の大幅な改善が期待できます。
以下、モザンビークでの医療支援の写真を添付します。コロナが発生し、もうなかなか行くことが難しくなっておりますが、アフリカでも指導した眼科医が少しずつ、手術を行っていると聞き、安心しております。